以前、鉄道業界の本を読んでいていたときに見つけた社内イベントの話です。
鉄道業界には、検修競技会というイベントをする企業があるそうです。これは、わざと故障をしかけた車両を参加者にチェックさせて、故障の原因を考えて修繕させるというコンテストです。
車両のメンテナンス業務がルーティンワークになっている現場作業員の方々のモチベーションアップや、新型車両への理解促進などを目的としており、各エリアの現場作業員の中から参加者を選定します。
若い社員が多いエリアでは、いい緊張感があり、みな熱心に勉強してから競技会に参加するため、成績も良くなります。一方で、ベテラン社員が多いエリアでは、参加者選びから難航するところもあるようです。残念ながら、彼らはそれほど準備せずに参加しており、若手社員ほどモチベーションも高くないので、成績も芳しくない傾向にありました。
そのため、競技会を行うと、若手社員のチームが上位を独占することになります。 しかし、順位は審査員が協議の上、決定する仕組みであったため、別日に話し合いの場が設けられました。そこでの話し合いが、困った内容なのです。
「若手だけに花を持たせる競技会になれば、ベテラン社員がますます出場したがらなくなる。」
「ベテラン社員を出すのに苦労したエリア長が報われない。」
「毎年、同じエリア(若手が多い)から優勝者が出るのは、各エリア長のメンツに関わるから避けなければならない。」
「なんとか目立たないようにベテラン社員にも花を持たせなければ・・・」
このような困った話し合いの末、ベテラン社員に下駄を履かせて順位付けが行われていたそうです。
人事評価においても似たようなことがあります。評価者の好き嫌いで、評価結果が変わることもあります。また、経営層や人事部による “制度にはない評価結果の調整” は、決して珍しいことではありません。
もちろん、ないに越したことはありませんが、人間が人間を評価するというそもそも無理のある行為に取り組む以上、やむを得ない時もあるでしょう。しかし、手心を加えることによる影響については、よく考えておかねばなりません。
それをやることによって、
・対象者のやる気は高まるのか?
・何らかのメリットが本当にあるのか?
・どのようなデメリットがあるか?
・対象者の成長を阻害することにはならないか?
・周囲への影響はどうか?
などについて、一度考えてみる必要があります。
先の例で言えば、安全対策に問題は生じないのか?あるいは、社員の成長が阻害されることによる商品やサービスへの影響はどうか?下駄を履かせる前に、こうしたことを考えておきたいものです。
公正で公平な評価を実現することは極めて困難ですが、それを目指そうとしない姿勢のほうが問題なのかもしれません。