先日、人事評価の運用がうまくいっていない企業からご相談をいただき、評価シートを拝見しました。
評価シートには、細かな文字がびっしり並び、たくさんの評価項目が設定されていました。
このように、評価項目が多い企業は決して珍しくありません。
導入している企業としては、評価項目が多いとは思っていない、あるいは、その正当性を感じているからこそ活用しています。
経営層や人事の方のお話をお聞きしていると、人事制度の改定を繰り返すうちに増えていったケースが多いようです。
どうして評価項目が増えてしまうのでしょうか?
私は、3つの理由があると考えています。
1.評価項目が少ないと、人が育たないかもしれないという不安
明文化されているか否かは別として、どの企業にも求めている人材像があります。
しかし、そう簡単に求めている人材が育つわけではありません。
人事制度の改定時に、思うように人が育たなかった原因を評価に求め、新たに評価項目を追加することがあります。
ここで、追加した評価項目の代わりに、他の項目を減らすことができれば、冒頭のようなことにはならないのですが、実行することは難しいようです。
皮肉なことに、評価項目が増えれば増えるほど、求める人材像は、現実とは程遠いスーパーマンのような人材に近づくのです。
これでは、求める人材に育つ可能性はますます下がり、何のために評価を実施しているか分かりません。
それでも、評価項目が多くなってしまう背景には、評価項目を設定する経営層や人事の不安があります。
評価項目を減らすと、社員がその項目を軽視する、あるいは、意識しなくなるのではないかといった懸念が生まれます。
そのため、評価項目を減らすどころか増やしてしまうのです。
評価の項目数よりも、項目の内容のほうが大切なことは、誰もが分かっている事なのですが、いざ評価シートに反映しようとすると、「ないよりあったほうがいい」という判断に偏りがちです。
2.公平性・公正性を担保したい
人事評価において、厳密に言えば、評価項目にない行動や実績は評価されません。
「評価項目が少なければ、評価されない行動や成果が増えます。」
「だから、公正ではない」という理屈です。
また、一つの評価項目に対して、成果を出しやすい仕事を担当している人と、そうでない人がいることを指摘されて、「公平ではない」となります。
このような懸念を払拭すべく、評価項目がどんどん増えていくのです。
3.評価項目を収斂させることが困難
ある職務を遂行する上で、あの能力が必要、このスキルも必要というように、考えを発散させることは、悪いことではありません。しかし、それらを収斂させることができていないのではないでしょうか?
言い換えれば、ある職務を遂行する上で、どのような知識・能力が本当に重要であるか、また、その優先順位を判断できる人がいないのかもしれません。
必要と思われるスキルや能力などを評価項目として設定する際、明らかに不必要と判断されない限り、周りから反対されることはありません。
一方、評価項目として設定していないスキルや能力があると、「これも必要ではないか」と、周りから言われることはよくある話です。このような時に、不要であると言い切れなければ、評価項目を新たなに追加してしまうことになるのです。
評価項目は、とにかく少ないほうがいいと言っているわけではありません。
また、「妥当な評価項目数はいくつであるか」という議論にも、さほど意義があるとは思えません。
ただ、評価者が一定期間に評価できる項目数は、それほど多くないという事実を忘れてはいけません。
人事制度に関して、従業員インタビューをさせていただくと、日常的に評価項目を意識して過ごしている方は、極めて少ないのです。なぜでしょうか?
「すべての評価項目を覚えられない。」
これが最も多い理由です。
評価項目が多いと、緻密な評価になると言われることがありますが、現実には必ずしもそうなっていません。
このような現実といかに向き合い、どのような評価制度を運用していくか。
これをしっかり考えることが、人材育成の観点からも重要ですし、組織力を高める上でも、避けては通れない問題であると言えます。