「そのスキルを持っていなくても、実際の業務に困っていないのだから、
習得は不要ではないか。」ある企業のマネジャーが、私との面談でこう言いました。
マネジャーなど、メンバーの育成に携わる方々と話していると、多くの方が現在の業務を基準にしてメンバーのスキル開発を考えています。
業務に支障をきたさないスキルや知識は、習得しなくてもいいのでしょうか?
組織で働く以上、自らの役割を果たすべく担当職務を滞りなく行うために、その職務に取り組む上で必要な知識やスキルを磨くことは当然です。
現在持っている知識やスキルを把握して、職務で求められる知識やスキルとのギャップを埋めようと考える。
一方で、現在の職務で求められない知識やスキルは磨こうとしない。優先順位が低くなるか、あるいは、磨く必要性すら感じない。
しかし、このような考え方は、人材育成に関するリスクを孕んでいます。
1.主体性の低下
マネジャーが、メンバーに対して、いま不足している知識やスキルを補うことだけを求めていると、常にダメ出しを行うことになります。
減点主義のマネジャーの下では、主体的に能力開発を進めるメンバーは現われにくくなります。
2.後手になる育成
変化の激しいビジネス環境に対応していくには、将来必要となると考えられる知識やスキルを予測して開発していくというような未来を見据えた人材育成も重要になります。しかし、現在取り組んでいる仕事ありきで、能力開発をするということは、育成が常に後手になるということです。
3.イノベーションの欠如
一見、業務には関連しないような知識や経験でも、後々になって役に立ったという例はたくさんあります。
スティーブ・ジョブズが、学生時代、熱心にカリグラフィーを学んでいなければ、私たちが使用するパソコンの フォントは、今ほど多くなかったかもしれません。
彼は、Macをつくるために、カリグラフィーを学んでいたわけではないのです。
将来、役に立つか分からない知識やスキルを磨くことは、現在しか見ていない人にとっては、受け入れられないのかもしれません。
あるいは、業務に追われすぎて、余裕のない職場が増えているのかもしれません。
人材育成において、効率化を求めすぎると、いま必要な知識やスキルを習得させることに注力する組織が増えるでしょう。
ただし、その結果、失われていくものをよく考える必要があると思います。